「悩みを話すこと」の大切さについて
カウンセリング
2020年9月30日
話したって解決しない!?
今、このページを読んでいるということは、あなたは何か困りごとを抱えていると思われます。しかしその一方で、「どうせ話しても解決しない」と思っているかもしれません。確かに、そうかもしれません。あなたがずっと悩んで抱えてきた問題は、誰かにちょっと話しただけで解決する、そんな簡単な問題ではないのでしょう(そんな簡単に解決したら「困りごと」ではないですから!)。しかしそうだとしても、困りごとを話すこと、そしてそれを聞いてもらうことには、あなたにとってよいことがあります。
問題焦点型コーピングと情動焦点型コーピング
心理学では、ストレスの対処法を「コーピング(coping)」と呼びます。このコーピングの方法は、大きく分けて2つの方法があるとされています。
1つ目は問題焦点型コーピングと呼ばれる方法です。これは困りごとを直接なんとかしよう、解決しようとするものであり、もちろんこの方法が使えるに越したことはありません。2つ目が情動焦点型コーピングと呼ばれる方法です。これは困りごとがあることで生じた、不安や緊張などの情動をなんとかしようとするものです。
情動焦点型コーピングは直接問題を解決するものではないものの、状況が好転するまでその人が待つことを助けたり、過度のストレス反応から心身を守ったりと、健康を保持する上で重要な方法です。困りごとや自分の悩みを話すことは、解決を目指す問題焦点型コーピングだけでなく、不安や緊張を和らげる情動焦点型コーピングとしても有効となります。
反すう思考に対処する
あなたは悩みごとがあるとき、どのようなことを考えています?なんとかその問題を解決しようと、いろいろと「ああしたらどうか」「こうしたらどうか」と考えていませんか?しかしそこで上手く解決策が見つからず、同じことを何度も何度も考えていませんか?同じところで思考がグルグルと回り、そうこうしているうちに、だんだんと気持ちが落ち込んでしまっているのではないでしょうか?
心理学では、こうした状態を反すう思考(抑うつ的反すう)と呼びます。反すう思考が続くと、どんどんと気持ちがネガティブに向かってしまい、すべてを悲観的な見方をするようになってしまいます。じゃあネガティブなことを考えないようにすればいい、と思うかも知れません。しかし厄介なことに、人間は考えないようにすればするほどそのことに注目してしまう、という特徴があるのです。
ただし、反すう思考は誰かにそのことを話すと止まるという特徴があります。つまり、誰かに悩みを話しても解決することはないかもしれませんが、反すう思考に陥って気持ちの落ち込みが生じることを防ぐという効果があるのです。
また、一人で悩みについて考えていると、最初は具体的だった悩みが、どんどんと抽象的になっていってしまいます。そうこうしているうちに、漠然とした苦しみが出てきます。それは時に、「消えたい」や「死にたい」といった気持ちにまで行きつきます。具体的な悩みはまだ解決の方法がありますが、こうした抽象的な苦しさは対処をすることができません。時として生じてしまうリストカットなどの自傷行為は、そうした苦しみをがまんができる身体の痛みに変えようと生じるものになります。
しかし悩みごとを誰かに話をすると、抽象的でなく具体的な話をしていくことになります。そうなると、そうした漠然とした苦しみは生じづらくなり、より適切な対処方法をとることができます。このように、悩みを誰かに話すことはストレスに対処するためのとても大切な方法なのです。
話す相手を選ぼう
ただし、悩みを話す際には、相手を選ぶことが必要です。もちろん、有効なアドバイスをしてくれる人(主に問題焦点型コーピングを手伝ってくれる人)も大切ですが、話すことで情動焦点型コーピングになったり、反芻思考を止めてくれる人は、穏やかにあなたの話を聞いてくれる必要があります。あるいは、悩みを話す前に「話をきいてくれるだけでいいのだけど」と伝えることもよいでしょう。
話す相手がどうしてもいなかったり、あるいは話しづらい内容であれば、カウンセラーを頼るということも考えてよいと思われます。話し相手としてのカウンセラーのメリットは、話した内容が漏れる可能性がほとんどないという点にあります。この記事の筆者は、臨床心理士・公認心理師であるため、ぜひ我々に頼ってください!といいたいところですが、まずは身の回りの人に話すところから試してみてはいかがでしょうか。