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はじめに:トラウマが背景にある人への基本的心理支援

コラム

2021年4月30日

複雑性PTSDがICD−11に収録されるなど、近年、トラウマ(心的外傷)への注目が高まっています。同時に、私たち心理職にもトラウマケアを行うことが期待されるようになってきました。今後、ますますそうした技能の取得が求められていくことは間違いないと思われます。

筆者も、EMDRの研修を受けたことをきっかけに、トラウマケアの研修や勉強会に積極的に参加し、トラウマが背景にある人への心理的支援を行ってきました。しかし、実際のトラウマが背景にある人に対する臨床を重ねていくうちに、そうしたトラウマケアの技法の練度以上に、まず目の前の人を理解すること、そして関係づくりこそが何より大切であると感じるようになってきました。トラウマが背景にある人の支援の難しさは、基本的な心理支援がうまく成り立たないということにあるのではないか。裏返せば、その問題をクリアできれば、自ずと支援の方向性が見えてくるのではないか、ということです。

この問題を考える上で一番参考になったのが、複雑性PTSD概念の提唱者であるハーマンの『心的外傷と回復』です。もはや古典ともいうべき著作になっていますが、臨床場面で語られるクライアントの語りに対して、未だにもっとも力強い説明を与えてくれるように感じます。その他にもコーク(2016)の発達性トラウマ障害のアイデア、また本邦における杉山(2019)や白川(2016)といった治療者の著作や講演、勉強会などからも、トラウマがもたらす影響について学ぶことができました。

また同時に、どうしても支援の枠組みに乗らない人たちもいることにも気付かされるようになってきました。もちろん、自分の治療者としての未熟さや技量不足はあるでしょう。しかし、とりわけ10代後半から20代前半の若年層のクライアントに対して、「まだこの人には積極的な介入が早いのでは」と感じざるを得ない場面があることもまた確かです。そうした人の支援が途切れてしまうと、自らの限界と無力感を味わうことに鳴るのですが、SVや事例発表で振り返ると微かな希望もまた残っていることに気づかされることもありました。

そんな中で出会ったのが、上岡陽江・大嶋栄子の『その後の不自由:「嵐」のあとを生きる人たち』(医学書院)です。この本の中で当事者の視点から描かれた回復のモデルは、上記で述べたような筆者の疑問の多くに答えてくれました。そしてこの本でも言及されていた中井久夫の著作の中にも、回復を下支えするような治療的関わりの姿勢を発見することができました。また、これらは福祉の援助論の中で近年言われるようになった伴走型支援(奥田ら,2014)のアイデアと共通することもわかってきました。

これらを踏まえた上で、筆者はトラウマが背景にある人への基本的な心理支援とはなにか、について考えてきました。基本的な心理支援とは、ある特定の技法の前提となりうるような、支援者の関わりや態度を指すものとなります。もちろんしっかりとしたトラウマケアが必要な人も多くいますが、こうした基本的な心理支援ができた上でその効果はしっかり出てくるし、また一部の人はこうした基本的な心理支援のみで回復に向かうと考えられます。

もちろん筆者は経験は十分でなく、さらなる技能の習得が必須な立場にあります。ただ、こうした基本的な心理支援のアイデアがあることで、少なくともケースを実施していく方針を立てられるようになってきました。何かの参考になればと思い、現在まで筆者が考えてきたことをここで書いていきたいと思います。

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