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心理の仕事について

コラム

2021年2月8日

お医者さんの仕事は、医学的な知識に基づいて診断や治療をすることだと思います。統計的に「健康な人」からデータ的に外れた人たちを、「健康な人」と同じ水準に戻すことが目標とされていることが多いように思います。例えば、飲みすぎて肝臓の数値が高ければ、数値を正常範囲内に戻すために「お酒を控えましょう」、「この薬を飲んでみてください」と指導をすることが多いと思います。また、働きすぎている人には平均残業時間内に収まるよう伝えたり、上司に仕事の割り振りについて言付けしたりすることがあるかもしれません。

心理士の仕事は、臨床心理学に基づく知識を用いて対応するものです。そこは間違いないと思うのですが、なんだか説明が難しいのです。人の気持ちという曖昧なものを扱うため、正解がないのかもしれません。でも、なんとか説明してみようと思います。

ニーズにあわせて関わっていく

その人がどんな状態か見立てるために「健康な人たち」という水準を参考にすることはありますが、データ的に外れている人を元に戻すことを目的としません。その人その人、ケースバイケースで対応策を検討していきます。何か症状があったら、症状がある人の気持ちを確認します。日常における困り感があったり、なんとかしたいという気持ちがあれば、少し楽に過ごせるように助言をしたり、一緒に対応策を模索したりします。そうでなければ、その人のニーズにあった関わり方をしていきます。もしニーズが引き出せなさそうであれば「うーん、とりあえずお話ししていく?」と誘います。心理士として本当にできることがなければ「今後こういうことになったらまた来てね」とか「話したくなったらおいでね」とか言って、一旦お別れすることもあるでしょう。

病院で働いている心理士の場合、ほとんどの患者さんは受診意思がある人です。症状に困り、なんとかしたいと思ってきている人たちです。そのため、ニーズの部分の確認が簡単に済むことが多いです。ただ、中には例外もいます。親に無理やり連れてこられた子どもや、産業医に受診を促された会社員などです。そういった場合は、「無理やり連れてこられたんですか?大変でしたね」、「さて、何か私で力になれることはあるかしら」とお話したり、雑談をしたりと、本人の目線に合わせて話していくこともあります。

心理の治療としては、ケースバイケースで「どうなれるといいか?」を確認して、治療方針を決めていきます。ただ、中には今の状態に困ってはいるけど治療に取り組むほどの熱意がない人もいます。「健康な人」と同じになりたいわけではない人たちです。背景にある理由は人によってそれぞれですが、今回は「自分がどうなりたいか」がわからない人を例にしましょう。症状は一旦置いて、どうなりたいかを考えます。なかなか出てこない場合はあの手この手で質問を変え、語ってもらいます。ある人には「あなたのお葬式の送辞で、どんな人だったって言われたい?」と尋ねることもあります。もしその人が本心で「仕事に打ち込む一生懸命な人でした、と言われたい」と思っていたら、医師に働きすぎと指摘されても、仕事量を減らそうとは思わないでしょう。たくさん働くことがその人の目指す理想像なのですから。また、自殺願望のある女性が「かわいいおばあちゃんになりたい」と言えば、長生きしながら周囲にかわいいと思われるためにはどうしたらいいのか考えるきっかけとなります。自分の人生を俯瞰的に見るお手伝いをしてみます。

そして、今の症状が自分の理想像において障害となりうるかを検討します。障害となりそうであれば、治療に専念しようと思ってくれるかもしれません。対して障害となっておらず、別に症状があっても困らないようであれば「上手に付き合っていけばいいんじゃない?」と日常でできる工夫を少し考える程度で治療は終了となるかもしれません。人の数だけ治療方法があるでしょう。

ただし、支援職である以上、命を落とす欲が強い人には、多少強引に拘る必要が出てきます。「私の願いは死ぬことです」と言われ、それをお手伝いすることはできません。まずは「本当には死なないでね」と約束をします。そして、対応する人によって方法も異なるでしょうが、なぜ死にたいのか、死ぬことにどんな意味を見出しているのか聴き、少しでも楽にいきられる方法を提案することがあります。カウンセリングで一緒に自殺方法を調べながら想像の中で死んでみてスッキリする人ならば、一緒に自殺についてお話しすることもあるでしょう(死なない約束ができない場合は入院などの対応を取るかも)。

心理士の仕事とは

さて、先に述べたことを考慮して、頑張って文章でまとめて見るならば、心理士の仕事は「その人の性格や背景事情をできるだけ把握し、臨床心理学などの知見を考慮した上で、一番適切だと判断される方法で対処する」ことなのかしれません。

これを行うためには、相手が自分の気持ちや考えを表現しやすい空気感を作ることが求められますし、一番適切な方法を判断するためには症状別に効果的な治療方法を知っておかなければなりません。また、その人の性格や背景事情を加味した上で効果があるか見極めるための判断力が求められます。臨床心理士という資格を取るためには、人の話を聴く練習から始まります(実際、大学院では2年弱この訓練を行います)。また、臨床心理士という資格が更新制なのは、定期的に新しい知識を取り入れていることが前提だからなのかもしれません。

まあ、でも、臨床心理士でも「この人はどうなんだろう」と不安に感じる人もいれば、臨床心理士でなくても「この人は信頼できる」と感じる人もいます。資格はあくまでも参考程度に、一人で大変さに立ち向かえないと思ったら周りに頼ってみてほしいです。色々と書きましたが、なにはともあれ少しでも楽に生きられる人が増えたらいいなと思います。

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