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精神科での予診のとりかた

専門家向けブログ

2021年6月21日

予診とは、診察の前に行う「予備的な問診」のことを指します。主にその目的は医師がよりスムーズに診察に入るために行うものであるといえます。精神科や心療内科では、コメディカル・スタッフによって行われることがあります。

十分な時間が取れる場合はよいですが、勤務する現場によっては通常の業務の合間を縫って予診に行く必要もあるでしょう。そこでここでは、限られた時間で効率よく予診を行うためのポイントについて考えてみたいと思います。

想定としては街中の成人向けの精神科や心療内科のクリニックに勤める、1~3年目のコメディカル・スタッフ向けのものとなります。

よい予診とは

それでは、よい予診とはどのようなものでしょうか。筆者は「診断に必要な情報が聞き取られていること」「ストーリーとして情報が整理されていること」という、二つの条件を満たしているものだと考えています。

患者さんのいうことをただそのまま書き取るだけでは、上の二つを満たすような予診にはなりません。専門知識と、想像力を働かせながら、患者さんの話を導いていくことが、よりよい予診を作り上げるためには必要です。

筆者がこころがけているのは「現在の情報からはじめて、過去にさかのぼっていく」というやり方です。その中で必要な情報を聞き取り、そしてストーリーとして情報を整理していきます。

まずはDSMについて

予診では診断に必要な情報を聞き取らなくてはなりません。そのためには、精神科の診断で主に用いられている診断基準である、DSM−5について知っておく必要があります。

DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)とは、アメリカ精神医学会が作成した精神疾患に関する国際的な診断基準です。現在は第五版であるDSM-5が用いられています。その特徴としては、操作的診断基準と呼ばれるものがあります。これは(後で述べる一部の例外を除いて)精神疾患の原因を特定しなくとも、現在の症状とその経過のみに基づいて診断名が決定できるというものです。

DSMに基づくことによって、ともすれば主観的判断になりがちであった精神疾患の診断は、信頼性を持つことができました。そういった点で非常にDSMは有用なのですが、同時にそれは弱点でもあります。こうしたことを念頭に置いた上で、実際の手順について以下で述べていきましょう。

現在の情報から聞き取ろう

まずは現在の情報に基づいて、患者さんが話す困りごと(主訴)がDSM-5の中でどの病名に当てはまるかを考えて聞いていくことから始めましょう。

はじめに出会う確率が比較的高い精神疾患について、しっかり聞き取りができることを目指しましょう。抑うつエピソードや精神病エピソード、パニック症や強迫症などの不安症の症状や特性などから始めると良いと思います。「自分は発達障害かもしれない」などの訴えが多い職場では、成人の発達障害の症状や特性なども把握しておく必要があります。他にも摂食障害、依存症、パーソナリティ障害など、ひとつずつ覚えていきましょう。慣れないうちは、精神科プラチナマニュアル(松崎,2020)などを手元に置いておくこともおすすめです。

少し余裕が出てきたら、鑑別が必要となる精神疾患の症状についても触れていけるようになると好ましいです。不安症と統合失調症の前駆症状など、一見すると区別が難しい症状があること、発症しやすい年齢や性別などを知っておくと、どの疾患について尋ねるかを決めやすくなります。少しでも当てはまる可能性がある場合、しっかりと記載しておきましょう。

もちろん、予診の後には医師の診察があるためそこまでプレッシャーに感じる必要はありません。ですが、症状性・器質性の精神疾患も含めて、多くの疾患の症状や特徴について把握しておくことで、予診の精度は高まります。医師の診察の後に振り返りの時間を持ってもらったり、あるいは初診に陪席する機会があると良いでしょう。

きっかけから来談までの経緯を整理しよう

一通り診断名に基づき現在の情報を聞き取ったら、そこから少し過去にさかのぼり、困りごとや症状のはじまりについて聞いていきましょう。患者さんによってはここから話を始める人もいるので多少前後することはありますが、基本的な流れは変わりません。

その症状は始まったのはいつか、その時の状況はどうだったかなど、起始ときっかけについて聞いていきます。また、自分なりにどうしてその症状が起きたと考えているかという解釈モデルについて尋ねることも有効です。これらはDSMに基づいて診断する際にも必要な情報となります。

加えてここで重要となるのは、患者さんの語りをきちんと納得しながら話を聞いていくということです。言い換えるのであれば、患者さんの語りを聞き手がきちんと追体験できるかどうかを確認していくことが大切です。これは「了解」と呼ばれるものであり、この概念はいわゆる伝統的精神医学の中で重視されるものとなります。操作的診断基準を採用したDSM-5ではあまり「了解」は重視されないものですが、それを補うものとして、実際の治療方針や患者との関わり方を決めていくにあたっては大切な情報となります。

そのため予診では、来談に至った経緯をストーリーとして整理して記述していこうとするとよいと思われます。話の流れやある部分がストーリーとして成り立たないものである場合、それは「了解不能」であるものとして、診察の中で重要な情報となる可能性が高いものとなります。時間に余裕があれば、生育歴や職歴も聞けるとなおよいでしょう。何が「了解」であり、何が「了解不能」であるのか、なるべく多角的な視点から浮かび上がらせることができると、よりよい予診になっていくと考えられます。

DSMの鬼っこたちを探る

ここまでで、予診として聞き取る情報としては十分だと思います。ですが、ここからさらに過去に遡ることで、DSMの弱点を補うことができます。

すでに述べたように、DSMは精神疾患の原因を特定しなくとも、現在の症状とその経過のみに基づいて診断名が決定できることを目指した診断基準です。しかしいくつかの精神疾患の診断のためには、過去の情報が必要になる場合があります。これはDSMのいわば「鬼っこ」ともいうべきものであり、見落とす可能性が高い疾患であるといえます。正確な診断を行うためには必要な情報ですので、必要に応じて聞いていくことが望ましいと思われます。

まずあげられるのが、軽躁エピソードです。近年、なかなか治らないうつ病とされてきた患者さんの中に、双極II型障害という、抑うつエピソードと軽躁エピソードを繰り返す疾患群があることが明らかになってきました。この患者さんたちが支援を求めるときは抑うつ状態であることがほとんどのため、現在の症状だけを聞くとうつ病の診断基準を満たしてしまいます。そのため、双極Ⅱ型障害かどうかを判断するためには、過去に遡って軽躁エピソードがないかを確かめなくてはなりません。とりわけ若年層の「うつ」においては、「何日も徹夜しても大丈夫だったことはなかった?」というように、元気すぎた時期はないかなどを確認しておくと良いでしょう。その他にも反復性うつ病など、過去のエピソードの存在が診断の基準となる疾患はあるため、しっかりと過去に同じような症状はなかったかどうかや、通院歴や職場や学校での不適応の存在は聞いておく必要があります。

次にあげられるのが、トラウマ体験です。心的外傷およびストレス因関連障害群という、DSMの中で診断に際して例外的に原因を特定することが必要となる精神疾患です。この疾患群は過去のトラウマや現在の強いストレスから発症するものであると考えられており、PTSDや適応障害が含まれます。虐待やいじめ、性被害などのトラウマ体験はPTSDだけでなく、さまざまな精神疾患のリスクとなりうるものです。もちろん、過去の辛かった体験を詳細を語らせることを予診で行うことは避けるべきです。しかし、「例えばいじめや虐待など、過去にどうしても忘れられない辛い出来事を経験したことはありますか?」など、「はい」か「いいえ」で答えられる形でも、あらかじめトラウマ体験の有無を確認することは重要であると思われます。

最後にあげられるのが、幼少期の発達エピソードです。ここしばらくのメディアの報道によって、自分の困りごとや生きづらさについて、多くの人が「自分は発達障害ではないか」と市中のクリニックを訪れるようになっています。しかし発達障害として診断されるためには、その症状が幼少期のころからはっきりと表れている必要があります。子どものころの特徴的な発達エピソードの聞き取りをはじめ、健診での指摘の有無の確認は大切となります。また知的障害のスクリーニングの質問として、中学生の時の成績について聞き取りは有効になると考えられます。「授業は聞いていたがまったく理解できなかった」というようなエピソードがあると、現在の困りごとの背景に知的能力の問題が隠されている可能性があります。

注意点

実際に予診票に記載する際の注意点としては、患者さんの言葉をなるべくそのまま記載することを心掛けるとよいでしょう。情報として整理しつつも、なるべく生の言葉を残すことが大切です。また、話を聞いていて違和感を覚えた場合、予診ではそれを積極的に記述しましょう。典型的な症状には見られない特徴や、あるいはストーリーとして納得することが難しい事柄などが、後の診察の際に重要な情報となることが多くあります。

最後に、自殺・自傷のアセスメントです。自他に危害を及ぼす可能性がある場合には、実際にどのような行為をしたか、現在の意思や希望はなにか、またその具体性や計画性についてしっかりと聞き取ることが大切となります。

「そんな状態が続いていると、死にたいと思っても一般論としては不思議ではない感じがするんですが、いかかでしょうか?」など一般化すると尋ねやすくなります。 希死年慮が確認できたら、積極的に死にたいと思っていないかを聞きましょう。希死念慮が強く、実際にリスクが高いと思ったら、死にたい思いが浮かび上がるのがどういう時間帯や場面に集中しているか、また具体的な自殺の計画をもっているかを確認していきましょう。

参考文献

笠原嘉(2007) 精神科における予診・初診・初期治療 星和書店

宮岡等(2014) こころを診る技術 精神科面接と初診時対応の基本 医学書院

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