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「回復」とはなにか

コラム

2021年5月30日

「治療モデル」から「回復モデル」へ

それでは、トラウマが背景にある人たちへの基本的な心理支援ではどのようなことが目標となるのでしょうか。もちろん、PTSDの症状がある場合、その緩和がトラウマ治療の目標になります。しかし、そうした治療を受けるための関係を治療者と築くことが、まず難しい人たちがいます。また、そうした治療がうまくいったとしても、すべての生きづらさが解消するわけではありません。そして、明確なPTSD症状を持たなくとも「嵐のあとを生きる人たち」として、過去にあった傷つきの影響で苦しむ人たちもいます。

こうした人たちの困りごとに向き合うとき、通常の「治る」ことを目指す治療モデルではうまくいかないことが多いです。その理由としては、トラウマを負った人たちの症状や問題行動の少なくともある部分は、生き残るための「曲芸飛行」として身につけたものであるからです。それは、他の臓器と癒着した腫瘍のようなものなのです。確かに現在の問題の原因であるかもしれませんが、それを雑に切り取ってしまうのであれば、命に関わる大出血を引き起こしてしまいます。これを防ぐためには、正確なアセスメントがなにより大切であることは言うまでもありません。

そこで、ここでは「治療」に代わるキーワードとして、「回復」という言葉を用いたいと思います。トラウマが背景にある人たちへの基本的な心理支援が目標とするのは、その人の回復の道のりを支援することであると言い換えられます。

目標:穏やかに人とつながることと、日常生活を楽しめること

それではトラウマを負った人の「回復」の道のりとは具体的に、どのようなことが目標となるのでしょうか。多くの治療者や当事者の言葉を整理すると、以下の二つに整理されるように思います。

まずは、人間関係についてです。トラウマは基本的信頼感を打ち砕き、それは対人関係の障害を生み出します(参考:基本的信頼感とトラウマ複雑性PTSDの症状と問題③:対人関係の障害)。結果としてトラウマが背景にある人たちは人間関係の中で孤立がどんどん深まってしまいます。しかし、人間関係で負った傷は人間関係の中でしか修復されません。そのため、人とのつながりを持てるようになることが、トラウマから回復のためには必須の条件となります。

そして、日常生活についてです。トラウマは緊急事態であり、そこを切り抜けるためにはさまざまな「曲芸飛行」を身につける必要があります。ですがそうして身につけた曲芸飛行は、トラウマが終わった後の「日常」を生きるには向きません。結果として、「その後の不自由」として、トラウマが背景にある人は穏やかな日常生活を送ることが難しくなってしまうのです。しかし、過去を否定することなく、等身大の自分で生きれるようになるためには、地に足がついた生活を送ることが必要です。そのため、日常生活を穏やかに過ごせるようになること、そしてその中で楽しみを味わう能力を持つことも、トラウマからの回復のためには必要なものとなります。

以上より、トラウマが背景にある人たちへの基本的な心理支援は、治療モデルではなく回復モデルを念頭に置いた上で、人とのつながりを持てるようになり、日常生活の中で楽しみを味わう能力を持てるようになることが目標になると考えられます。

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