うつは心の風邪?
コラム
2020年10月21日
「うつは心の風邪」なのか?
「うつは心の風邪」というフレーズは、新型の抗うつ薬のSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が販売されたとき、製薬会社によって用いられたものです。このフレーズにより、うつ病という病気が知られ、多くの方が適切な医療につながることになりました。しかし、このフレーズの問題点は「うつ」の範囲を限定していないということです。
従来、うつ病はその原因から「内因性」「外因性」「心因性」に区別して考えられていました。その中でも、うつ病の中核は「内因性うつ病」と呼ばれる、あたかも自然発生的に生じるような病態にあると考えられていました。しかし、現在主に用いられている基準では、そうした原因を特定せずにうつ病を診断することができます。これは「操作的診断基準」と呼ばれ、どんな医師でも統一的な診断が可能になるというメリットがありますが、代わりに「うつ病」の範囲を大きく拡大させました。その結果として、非常に多くの人が「うつ病」であると診断されるようになりました。
しかしながら、すべてのうつ病に対して薬物療法が効果があるわけではありません。とりわけ軽症例に関しては、抗うつ薬の使用は慎重にすべきであると、治療ガイドラインにもあります。周囲の環境をよりストレスがないものにしていくことや、時には自分の性格について考えていくことも大切になるとされます。「うつは心の風邪」というフレーズはその当時は大切であったと思われますが、現在では少し慎重に用いた方がよいといえるでしょう。