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初期:「見つける」支援

コラム

2021年5月24日

被害を「見つける」こと

症状の緩和にしろ、回復の過程に入るしろ、まずは「嵐」が終わることが前提となります。安全で安心な環境を確保することなしに、トラウマからの回復はあり得ません。そこでまずは「初期」として、危険な環境にある人を「見つける」という支援があると考えられます。

しかしトラウマに関わる支援者の誰もが実感することですが、この「見つける」ということが難しいのです。なぜかというと、トラウマとなるような出来事には「自己隠匿」ともいうべき特徴があるからです。加害者は被害者に罪悪感を抱かせ、そして第三者には沈黙を求めます。そのためトラウマとなるような被害にあっている人は、自身でそこから抜け出すことが困難なのです。同様のプロセスがいじめの中にあることも、中井久夫によって指摘されます。

トラウマとなるような被害をいままさに受けている人たちは、こうした「嵐」にいることを主訴に支援者の元に訪れることはまずありません。そのため、わずかなサインから彼ら・彼女らに起きていることを明らかにすることが支援者には求められます。

性被害の兆候

特に気を付けるべきは、性被害、とりわけ性的虐待・家庭内性暴力の存在です。これらは他の不適切養育問題と違って、その進行の危険性から確実に子どもを守る必要性が高い問題であると指摘されています。 『子どもへの性的虐待・家庭内性暴力の初期対応手引き』 では、以下の兆候が性暴力被害を受けている子どもにあると挙げられています。

◎かなり疑わしい、通常は見られない兆候
性器周辺にただれや外傷/性感染症/性的逸脱行動/性被害にあいやすい傾向/異性への過度の恐怖/性に対する拒否や否定的行動/妊娠・出産
〇疑わしい、しばしば性暴力被害が背景にある
繰り返される家出・徘徊/自傷、希死念慮/解離症状/夜尿・頻尿など排泄面での問題/睡眠障害
△性暴力被害を含む不適切養育環境にある子どもがしばしば示す特徴
盗みや万引きなどの非行/反抗的、乱暴/不登校/虚言/気分のムラが激しい/無気力・不安・対人面で過敏さ/うつ状態/頭痛、腹痛など身体症状/摂食障害

ここで示したような兆候がある場合、性的虐待・家庭内性暴力は常に「あり得ることである」という意識を持って援助にあたることが大切です。こうした被害を発見した場合、必ず医師や周囲の支援者に相談し、慎重かつ確実な対応をとることが必要です。他にも、発達の問題やいじめ、または学力不振といった問題から、「嵐」のさなかにいる子どもも多くいます。

こうした子どもに対しては、環境調整やそこから抜け出すような支援が有効となります。早期発見と、ソーシャルワーク的な関わりの提供、外部機関との連携を行う必要があります。特に未成年者の場合、パターナリステッィクな介入によって状況が改善することが十分期待できます。全ての支援者が、嵐の中にいる子どもを「見つける」ことが可能となるような知識と姿勢を持つ必要があるでしょう。

難しいケースの場合

しかし時にはさまざまな制約から、子どもが「嵐」の中に留まることを見届けることしかできない場合もあります。こうしたケースは「困難例」として、地域の支援者たちを悩まします。

こうしたケースでこそ、支援者が大人として正しく振る舞うことが求められると考えられます。子どもを搾取せずにその話をしっかりと聞き、最大限その意思を尊重すること。不必要な罪悪感を取り除き、支援を求めることは弱さではなく強さの証であることを伝えること。正しい情報を提供し、適切な相談機関を紹介すること。こういった支援が「嵐のあと」の回復を促すために必要であると思われます。

また、こうした子どもの体験する「嵐」はその前の世代、つまり両親や祖父母が身に着けた曲芸飛行の結果として生じていることが多くあります。つまり子どもが問題を引き起こすような不適切な養育者の対応が、養育者自身の過去のトラウマに由来して引き起こされてしまっているということです。

杉山登志郎はこうした場合、子どもと同時並行して、親の治療を行っていく必要があると強調しています。「嵐のあとを生きる人たち」は基本的に自分のために何かをすることがあまりうまくない人たちです。ですが、自分のために治療を受けることはできなくとも、子どものために辛い過去に向き合うことができる人たちがいます。子どもの問題は、親の回復の契機になり得るという視点を持つことが大切であると考えられます。

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