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双極Ⅱ型障害について

コラム

2020年10月20日

双極Ⅱ型障害とは

すでに述べたように、双極性障害はⅠ型とⅡ型に分けられます。ともに病状の中で「うつ」と「躁」という正反対の症状が出現するという点で共通しますが、一方でこの二つにはそれぞれ別個のものとして捉えるという見方もあります。今回はこの中でも「双極Ⅱ型障害」について、取り上げたいと思います。

軽躁状態について

まず、双極性障害のⅠ型とⅡ型を区別する特徴として挙げられるのが、Ⅰ型に存在するのが「躁状態」で、Ⅱ型に存在するのは「軽躁状態」であるということです。この躁状態と軽躁状態を区別する実用的なポイントとして、入院の有無が挙げられます。躁状態ではほとんどの場合が入院が必要であるのに対して、軽躁状態では日常生活は維持されることが多いです。

これはすなわち、躁状態では、だれが見ても「致し方なし」という形でまとまりが失われ、本人と周囲の損失を防ぐための判断がなされるということであるといえます。一方で軽躁状態ではまとまりが維持されるため、場合によって一定の成果をもたらすことすらあります。

また軽躁状態のときは本人の主観的には調子がよい状態であるため、自分が病気であるという認識はほとんどうまれません。それどころか「自分はこうあるべきだ」という理想像が満たされた、魅惑的で目くるめくような時間として、経験されています。たとえ失敗したとしても、周囲や運が悪かったと捉え、軽躁状態ゆえに行ってしまった自分の判断の過ちに対して内省されることは、ほとんどありません。

しかしその状態はいつまでも続きません。やがて理想像が満たされた軽躁状態は失われ、なさけないみじめなうつ状態がやってきます。多くの場合、そこで医療機関などを訪れることになります。しかし本人の希望は、軽躁状態と抑うつ状態の繰り返しを安定させることではなく、再びあの理想の軽躁状態に舞い戻ることなのです。周囲も本人のその勢いにのまれてしまい、軽躁状態は見過ごされ続けてしまいます。

双極Ⅱ型障害の特徴

双極Ⅱ型障害の有病率は約0.5%と言われており、女性が多いという報告あります。しかしこれは、社会的に軽躁状態が男性においては問題とされにくいという背景があると考えられます。また、うつ病や双極Ⅰ型に比べて、うつ状態や軽躁状態になる回数が多いとされます。

双極Ⅱ型障害のうつの状態の特徴として、うつ病のそれに対して「典型的でない」という特徴があります。また気持ちが変化しやすく性格の問題と間違えられやすいことや、抑うつのでる場面が職場や家庭など特定されていることも多いとされています。いわゆる「現代型抑うつ」と呼ばれるものと重なり合う点が多い可能性についても指摘されています。

また、不安、焦燥感が強いことが挙げられます。気分が特定のエピソードと関係なく生じるために、自分自身の方向性がわからずに混乱してしまうために、こうした強い不安、焦燥感が出現すると考えられます。

こうした特徴があるため、多くの精神疾患と間違えられやすいのが双極Ⅱ型障害の特徴です。とりわけ性格の問題とされて境界性パーソナリティー障害と診断される例は珍しくありません。しかしながら、境界性パーソナリティー障害とは異なり、双極Ⅱ型障害では理想化や価値下げといった対人関係の不安定さは存在しません。あくまで内的な気分変調症が基盤となるのが、双極Ⅱ型障害という疾患なのです。

またその性格特性としては、気配りができ、対人過敏性があるということが指摘されています。こうした特徴は、近年盛んに取り上げるHSP(Highly Sensitive Person)の特徴とも重なります。HSPの概念は非常に広いがために、細やかな症状の特徴を取り上げようという試みが放棄されてしまうことが、その問題点であるといえます。

治療について

双極Ⅱ型障害の治療において何より重要となるのは、その診断が正しくつけられることにあると考えられます。しかし上に述べたように、本人も周囲も軽躁状態を理想状態としているため、そもそもそれを症状によるものとは考えることは多くありません。また、性格の問題と支援者も捉えてしまうことは珍しくありません。症状を丁寧に聴くことでしか発見は難しく、そうした点で適切な治療ができる治療者に巡り合うということはとても大切です。

治療としてはうつ病や双極Ⅰ型障害と共有される部分が多いです。服薬をしっかりとすること、生活リズムの確立すること、適度な作業や運動を行うこととになります。ただこれらの疾患に比べ、より心理療法の重要性があると指摘されています。双極Ⅱ型障害では病気と性格の間のギャップが少ないために、疾患と回復期の連続性があり、学んだことをしっかりと生かせるといわれています。

心理療法への覚書き

内海(2014)は神田橋の指摘を引用しつつ、双極Ⅱ型障害への心理療法は内省を志向するのではなく、その性格と疾患の特徴とされる同調性にチューニングしながら、傷ついた自己価値の修復をはかることに主眼が置かれるべき、と述べています。これは、市橋(2000)が指摘するような自己愛の傷つきを根底とするような現代型抑うつの治療論と極めて似通っているといえます。内海も市橋もこれらを共に、ポストモダンの時代性と結び付けて論じていることも特徴です。現代の抑うつ症状に対して、笠原嘉の小精神療法的なアプローチには限界があり、自己価値の修復というコフート的な治療論の導入が必要であるという主張と言いかえられます。いわゆる「現代型抑うつ」への心理療法として、こうした精神病理学者の意見は重要だと感じます。

また双極Ⅱ型障害に対して重要になるのは、複雑性PTSDとの関係です。杉山(2019)は複雑性PTSDの症例において、双極Ⅱ型障害様の気分変調性が必発すると指摘しつつも、異なった治療が必要であると述べています。また杉山は上記の市橋のような自己愛性パーソナリティー障害の病理の多くは、複雑性PTSDの上に展開すると述べています(私的な会合での発言)。内海の双極Ⅱ型障害、市橋の自己愛性パーソナリティー障害論、杉山の複雑性PTSD論の重なり合いは、実際の臨床場面でも見出すことができます。いずれにせよ共通するのは、丁寧なアセスメントと根気強いかかわりあいが必要になる、という点です。各々の臨床家がしっかりとケースに向き合い、提出される仮説に基づいてその理解を深めていくことが大事だと考えられます。

参考文献

  • 内海健(2014)双極Ⅱ型障害という病:改訂版うつ病新時代 勉誠出版
  • 杉山登志郎(2019)発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療 誠信書房
  • 市橋秀夫(2000)内的価値の崩壊と結果主義はどのように精神発達に影響しているか 精神科治療学 15 1229-1236

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