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支援はなぜ困難なのか

トラウマ

2021年5月5日

「巻き込まれる」こと

「トラウマが背景にある人」への支援は困難であることが少なくありません。これはEMDRやPEなどのトラウマ処理の技法に成熟することが難しい、ということを意味するものではありません。とりわけまだ駆け出しの、若手の対人援助職全般に言い得ることとして、その支援を行うのが困難であるということです。

その困難さの理由は、まずは持ち込まれる困りごとや傷つきが大きすぎて、圧倒されてしまうというということです。毎回のように違う人物、違う場面でのトラブルが持ち込まれ、その話を聞いているだけで面談が終わってしまい、なんの進展もないように感じられることを繰り返される。または「本当にこんなことがあり得るのか」というような信じられない過去が語られ、なんと声をかけていいかわからない。こうした経験は、多くの対人援助職にあると思われます。

また、認知行動療法や支持的心理療法などの通常の心理支援で分かりやすい改善がみられないということもあります。治療法を提案し取り組んでみてもうまく行かなかったり、あるいは継続できずに途切れてしまうことも珍しくありません。そこで傾聴を中心とした、いわゆる「よりそう」支援をしていると、どんどんと困りごとが増えていき、収拾がつかなくなってしまうことがあります。いわゆる「巻き込まれる」ということです。いきなり得体の知れない人がやってきて怒鳴り声をあげ、結果的に自分の所属している機関の人たちとトラブルになってしまう、などなど。そんなことすらあります。

「ドタキャン」問題

そして何より多いのは、ドタキャンの問題です。トラウマが背景にある人の支援において、ドタキャンは付き物です。一回、二回で終わってしまうような面談も決して少なくありません。ある程度支援がうまく行っていると思っても、現実的な困りごとが解決したところで途切れてしまうことは多いです。杉山(2019)は複雑性PTSDの精神科外来において、全予約の3分の1にドタキャンがあったと述べています。こうした繋がりにくさというものも、トラウマが背景にある人の支援の困難さの一つです。

こうしたことが続くと支援者自身も傷つき、消耗してしまいます。過去の傷ついた記憶が甦ったり、どうしようもない無力感を味わうことは、どの支援者にもあることだと思います。そこでSVを受けたり、なんとか自分を奮い立たせることができればいいのですが、相談者に「あの人は◯◯だから!」となにかのレッテル貼りつけ、自分の支援がうまく行かないことを正当化してしまうことすらあります。専門知識は援助だけではなく、自分の保身にも使うことができます。そうした使い方をしてしまう誘惑に抗って行かなくてはいけません。そのためには、トラウマに対する新しい理解が必要になってきます。

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