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ADHDとASD

コラム

2020年12月9日

ADHDとASD(自閉症スペクトラム)の関係

世界の精神科医や専門家が、診断基準の手引になる「DSM」という本があります。数年前、このDSMが第四版(DSM-4)から第五版(DSM-5)へと改訂されることになりました。その中の目玉の一つとなったのが、ADHDとASDの関係です。DSM-4ではADHDとASD、どちらかの診断名しかつけることができませんでした。ADHDと診断された人はASDと診断されませんし、ASDと診断された人はADHDと診断されることはありませんでした。そのため、どちらか片方の治療を受けることしかできなかったのです。

しかし次第に、ADHDとASD、両方の治療を同時に進めなくてはいけない人が多くいることが明らかになってきました。そのためDSM-5に改定された際に、ADHDとASDの両方の診断名を同時につけることが可能になりました。この改定によって、現在ではADHDとASD、両方の診断を受けて治療を受けている人が多くみられます。

ただ、これでめでたしめでたし・・・とはいかないようです。「ADHDとASDの両方がある」と言うことができるようになったことで、併存する例の治療が可能になりました。しかしその反面、なんでも併存するとしてしまうと、その背景にある病態を取り逃がしてしまうことに繋がりかねないのです。そもそも、ADHDとASDは典型的には、正反対ともいうべき性質を持っています。ADHDが「動」ならASDは「静」、あるいはADHDが「肉食動物」ならASDは「草食動物」です。可能であるなら、どちらがそのベースとなっているかを特定することが望ましいと考えられます。そのためには、ADHDの人がどのような場面でASDっぽくなってしまうのか?ということを理解しておく必要があります。

ADHDの人がASDっぽく見えるとき

では、ADHDの人がASDっぽく見えるときとはいつなのでしょうか。ASDではこちらのコラムにあるような三項関係の問題や、感覚過敏といったものから「コミュニケーションの障害」や「こだわり」、「時間的な見通しを立てることが苦手」といった症状が出ます。しかし一方で、ADHDの人も同様の症状が生じてしまうことがあります。それはどのような時なのでしょうか。

ADHDの中核にあるのは、注意の問題です。注意を一点に維持し続けることが困難であるがために、次々と興味の対象が移り変わってしまう、目の前の刺激に引っ張られてしまうなどして、不注意や多動といった問題が現れます。これを転動性と呼びます。典型的なADHDの症状は、注意の転動性に由来しているといえます。

しかし反対に、ある事柄に注意がロックされてしまうことがあります。転動性ではなく、固執として注意の問題が現れるのです。そうなると思考や行動の柔軟性が失われてしまいます。そうなるとコミュニケーションでもわかりやすい言葉の情報だけに目が向いてしまい、「空気が読めない」ことになってしまうことがあります。あるパターンに固執してしまうと、それが「こだわり」になってしまうこともあります。また目の前のことで頭がいっぱいになって見通しが持てなかったり、イレギュラーな事態が起きるとパニックになってしまったりと、ASDの症状そっくりなことが生じるのです。

この注意の固執というものが生じる背景にあるのは、不安です。そのため、ADHDの人がASDっぽく見えるときというのは、不安がある場面であるということができます。こちらのコラムでも触れていますが、ADHDの人はその特性と周囲の環境の噛み合わせが悪いと対人関係の中で傷つくことが多いです。いじめや虐待といった深刻な問題まで発展することがあります。そうなると余計に大人場面での不安が生じやすくなり、それがASDっぽい症状を作り出すことになるのです。

しかしながらこれらの症状はあくまで注意の問題が基盤にあるため、ASDの人とは異なるルーツを持ちます。杉山登志郎はそのため、いわゆる典型的な「自閉症」の人と、ADHDがベースとなりASD様の症状が展開される人を区別することを提案しています。純粋にADHDとASDを併存する人もいる一方で、このようにADHDがベースとなって生じるASDも多く存在すると考えられます。

ADHDと併存するASDの人と、そしてADHDがベースにあるASD様の人。両者は環境に対して工夫をしていくという点においては共通しますが、その一方で薬物療法や環境への工夫の仕方などにおいては、やや異なる点があります。少なくとも支援者はこの区別を知っておくことで、より目の前の人の理解につながるのではないかと考えられます。

参考文献

杉山登志郎(2019)発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療 誠信書房

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