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PTSDの症状と問題

コラム

2021年2月3日

PTSDの症状

トラウマは、さまざまな症状や問題を引き起こすことが明らかになっています。その中でもPTSDは、トラウマの結果として生じる心の病気の代表例です。PTSDは「実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事に晒される」出来事の後に、特定の症状が1ヶ月以上続くことによって診断されます(参考:何がトラウマとなるのか)。

とりわけPTSDの症状の中で重要なのは「再体験」「過覚醒」「回避」の3つとなります。これらの症状は、他の病気や原因ではなく、トラウマによって引き起こされた可能性が強いものと考えられています。そのため、トラウマの影響を考えるためには、この3つの症状をまずは理解する必要があります。

再体験/侵入症状

再体験とは、トラウマ負った人がその出来事を再び体験してしまうという現象を指します。また本人のコントロールを超えて意識に入り込んで来ることから、侵入症状とも呼ばれます。

侵入症状の基本は、生々しい体験時の記憶が何度も何度もよみがえり、その時の苦痛をそのまま感じてしまうことです。この症状は、トラウマとなった出来事が通常とは異なった仕方で記憶されているために生じると考えられます(参考:トラウマ記憶の特徴)。この侵入は起きている時だけではなく睡眠時にも見られ、その場合は非常に生々しい悪夢が繰り返されることになります。

この侵入が非常に強い場合は、いわゆる「フラッシュバック」が生じることになります。フラッシュバックの中では、トラウマとなった出来事が再び起こっているように感じられます。「いま、ここ」が失われ、過去に引きずりこまれてしまいます。そのため、そのとき見えていたもの、聞こえていたもの、触れていたものをそのまま体験してしまい、非常に強い苦痛を再び味わうことになるのです。

こうした侵入は、トラウマとなった出来事と関連するようなものによって引き起こされます。しかし、一見するとほとんど関係ないようなものまできっかけとなるため、いつどこで起こるかを予測することはほとんど不可能です。まさに意識に入り込み、そしてそれを乗っ取ってしまうのです。

また広い意味での再体験には、トラウマとなった出来事と似たような場面や人間関係のパターンを繰り返してしまうという、「再演」を含む場合もあります(参考:トラウマの再演について)。

過覚醒

過覚醒とは、トラウマを負った人が常に脅威を感じて眠気やリラックスした状態になることができなくなるという現象を指します。

危機的な状況に置かれると、人間の脳は一気に興奮し、生存するための行動をすぐにとれるような「緊急事態モード」に全身を変化させます。通常は危機が去れば、脳はそのスイッチを切って全身を平常運転モードへと戻します。しかしトラウマを負うと、脳はいつまでたっても全身を「緊急事態モード」のままで動かすようになってしまうのです。これが過覚醒の状態です。

過覚醒の状態が続くと、ちょっとのことでイライラしたり、激しい怒りを示すようになります。周囲への警戒心も高まり、少しのことでびっくりしたり、あるいはあらゆる刺激に反応してしまうことで集中しにくくなります。

睡眠障害は過覚醒には本当につきものです。トラウマを経験した人の多くが、なかなか眠れなかったり、途中で目が覚めてしまったり、あるいは非常に浅い睡眠しか取れないということで悩みを抱えています。

こうした過覚醒のメカニズムが明らかになるにつれ、近年では自律神経やホルモンを通じて、免疫系の乱れなどが全身にさまざまな影響をもたらすことが指摘されるようになってきました。ただ同時に、自律神経系の調整がトラウマ治療に役立つ可能性についても研究や実践が重ねられるようになっています。

回避

回避とは、トラウマを負った人がそのトラウマに触れないようにし続けるという現象を指します。

回避のターゲットとなるのは、トラウマ記憶です。それを思い出すことそのものが非常に強い苦痛となるため、トラウマを負った人は極力それを思い出さないように行動します。それを思い出すような場所や人、会話、物、状況に触れることを避けるようになります。その結果、人付き合いが極端に狭くなってしまったり、引きこもりのようになってしまうこともあります。

回避があると、トラウマ記憶は普通の記憶に変換されないままになってしまいます。いくら辛い出来事でも、普通の記憶に変換することができれば、時間とともにその苦痛は和らいでいきます。しかし、回避があるといつまでもトラウマ記憶はそのままとなってしまい、苦痛が続いてしまうのです。

またトラウマ記憶によって生じた苦痛や、過覚醒によった生じた苦痛を紛らわすために、さまざまな手段に頼ってしまうことがあります。アルコールや薬物、あるいはギャンブルなどがその代表例です。結果として、依存が引き起こされてしまうことも多くあります。耐えきれない心の痛みを、ガマンできる身体の痛みに置き換える自傷行為も同様です。

さらに困難なのが、回避が無意識に引き起こされる場合です。あまりにも生じた苦痛が大きい場合、心はその衝撃から身を守り生き残るために、特殊な防衛方法を使います。体験そのものを感じない状態になったり、あるいは心の中にパーテーションを区切って傷つきを閉じ込めるようにしたりするのです。その結果、自分の感情や身体の状態をうまく掴めなくなったり、記憶や人格がバラバラになってしまうことすらあります。

3つの症状とトラウマ性疾患、発達障害

見てきたように、再体験、過覚醒、回避の3つの症状は、トラウマ記憶が直接的な引き金となって引き起こされる症状であると考えることができます。そのためこれらの症状は、トラウマ記憶をうまく処理していくことで改善することが見込めるものであるといえます。

しかし、虐待や監禁など、トラウマ体験が長期間に渡って継続すると、こうした症状がその人の生活全般に広く影響を与え、複雑性PTSDとしてさらに複雑な症状が出現することになります。また反対に、虐待や不適切な養育などはトラウマ記憶を生みやすい土壌を作るという特徴もあります。そのため大きな衝撃があった後に、PTSD症状が生まれやすくなると考えられます。

その他にも、自閉症スペクトラムの人には、PTSDの侵入症状に似た「タイムスリップ」という症状が生じることがあると知られています。タイムスリップと侵入症状には共通したメカニズムがあると考えられますが、タイムスリップは否定的な記憶だけではなく肯定的な記憶も含まれる場合があること、再演などの複雑な過程が伴うことが少ないことが異なると思われます。

参考文献

ジュディス・L・ハーマン,中井久夫訳(1999) 心的外傷と回復(増補版) みすず書房 

白川美也子監修(2019)トラウマのことがわかる本:生きづらさを軽くするためにできること 講談社

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