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自閉症スペクトラムの背景

コラム

2020年11月26日

自閉症スペクトラムの症状はこちらでも述べたように、①コミュニケーション/想像力の障害、②興味/関心の幅の限定的な狭さ、③感覚過敏/感覚鈍麻というものがあげられます。その中でもとりわけ、①コミュニケーション/想像力の障害というものが、その特徴としてよくあげられます。では、このコミュニケーションの障害というのはどこに由来するものなのでしょうか。ここでは、「定型発達」と呼ばれる発達特性の薄い子どもと比較して、自閉症スペクトラムの子どもにどのような特徴があるのか、そしてそれがのちの症状にどのように影響するのか、そのプロセスを辿ります。

結論を先取りしていうならば、自閉症スペクトラムの赤ちゃんは「人からの刺激を好む」傾向が定型発達の赤ちゃんより弱く、その結果として社会性の発達が遅れてしまう結果として、コミュニケーションや想像力の難しさとしてあらわれてしまうのです。

定型発達における愛着の成立

人間は、社会と呼ばれる複雑な環境を集団で作り上げ、その中で生活する生き物です。しかし生まれたばかりの赤ちゃんには、当たり前ですが社会で生きる力がありません。そのため、身体と同じように、社会に参加するための力を成長させていく必要があります。このことを「社会性の発達」と呼びます。

「社会性の発達」と聞くと、挨拶をするなど、周囲と仲良くするための行動をイメージするかと思います。しかしその最初の一歩は、生まれてからすぐの養育者とのやりとりの中から始まります。人間の赤ちゃんは、特定の養育者とやりとりを重ね、感情を共有していきます。その中で深い安心感と喜びを得ることで、自分とは異なる他者とつながることを求め、いろんな仕草や声を出すようになっていきます。

こうしたやりとりを通じて、幼児と特定の養育者に築かれる特別な関係のことを「愛着(アタッチメント)」と呼びます。愛着によって赤ちゃんの感情は安定し、そしてそれを基盤にしてその他の世界と関わることが可能になるのです。最初の社会性の発達は、特定の養育者を求めるという愛着の中で生まれていきます。こうした愛着の成立を後押しするのが、赤ちゃんの中にある「人からの刺激を好む」という性質です。代表的なものとして、赤ちゃんは人間の顔を好んで見るという傾向があげられます。その傾向が養育者と目を合わせることを促し、感情の共有や相互的なやりとりを生じやすくさせることになります。

また、肌と肌、あるいは柔らかな刺激が触れることを好むという傾向もあります。何か不快なことがあったとしても、赤ちゃんは親に抱かれることで落ち着くために、養育者と赤ちゃんの触れ合いが促進されていくことになります。赤ちゃんの「人からの刺激を好む」という性質が、大人からの養育的な行動を引き出し、社会性の発達の基盤となる愛着が生まれていくのです。

自閉症スペクトラムと愛着

ところが、自閉症スペクトラムの赤ちゃんはこうした「人からの刺激を好む」という性質が弱かったり、あるいはそれを妨害するような性質を併せて持ってしまっているのです。自閉症の赤ちゃんは、上で述べたような人間の顔を好んで見るという傾向が弱いことが知られています。なかなか目があわず、それゆえに定型発達の赤ちゃんであれば自然に生じるような、感情の共有や相互的なやりとりが生じづらいのです。

また同時に、養育者から触れられることや、声かけなどの刺激に対して敏感すぎてしまい、それが安心をもたらすものとして感じられないことがあります。人間の脳は不必要であったり不快であったりする刺激をカットする機能が備わっていますが、どうやら自閉症スペクトラムの人たちはそうしたカットの機能が弱いようなのです。生まれてからしばらくは、自閉症の子どもの方が脳が大きいという報告がありますが、これは本来不必要な機能が整理整頓されずにそのまま残されてしまうからかもしれません。こうした特徴が「感覚過敏」として生じてしまい、定型発達の赤ちゃんならば落ち着くような養育者の関わりでも赤ちゃんが安心することが難しくなってしまうこともあります。そうなると、養育的な態度を大人から引き出せなくなってしまうのです。

まとめると、自閉症の赤ちゃんは「人からの刺激を好む」という傾向が、養育者を見る力の弱さや「感覚過敏」によって弱められてしまっているようなのです。そうなると大人からの養育的態度をうまく引き出せなくなってしまい、結果として自閉症スペクトラムの赤ちゃんでは、社会性の発達の基盤となる愛着の成立が遅れてしまうと考えられます。

共同注視・三項関係・イメージの成立

社会性の発達について、愛着に次いで重要となるのが三項関係の成立です。三項関係とは、養育者と赤ちゃんが、あるモノを通じて経験を共有するような関係を言います。例えば、お母さんが「クマさんだよ〜」と行ってクマのぬいぐるみで赤ちゃんと遊ぶ時、お母さんと赤ちゃんの心はクマのぬいぐるみを介して繋がっています。この関係が三項関係です。


この三項関係が成り立つためには、子どもが養育者が向けている注意に気づいて、自分も注意を向けるという動作が必要になります。このような視線の調整を共同注視と呼びます。定型発達の赤ちゃんの場合、先に述べたように人間の顔を好んでみるという傾向があるため、自然と養育者の目の動きに注目するようになります。

そして共同注視が起こると、そのものを共有できたことを相手に伝え返そうとしたり、相手の意図を確認しようとモノと相手を交互にみたりということが頻繁に起こるようになっていきます。そして共有できたことが確認できると、にっこりと微笑むのです。赤ちゃんにとっても、そして養育者にとっても共同注視は快の体験であり、やがてますますこの三項関係が生じるようになっていきます。

そしてこの三項関係は、言語の獲得とともに、実際のモノだけでなくイメージでも生じるようになります。そこには実際にないものや概念についても、他者と共通した経験を持つことができるようになっていくのです。この他者とのイメージの共有こそが、われわれの人間関係を可能にするのです。赤ちゃんの人からの刺激を好む傾向が共同注視のやりとりを生み、それが三項関係の成立につながり、そしてやがてイメージの共有が可能となり、われわれの人間関係の基盤が作られていくのです。

自閉症スペクトラムと「心の理論」

しかし自閉症スペクトラムの赤ちゃんは、共同注視ができるようになるためにかなりの時間がかかります。その理由としては、定型発達の赤ちゃんに比べ、養育者の顔を見る時間が短いことの影響が考えられます。また、共同注視をしたとしても伝え返しや交互確認、そして快の感情を示すことがほとんどありません。やはり、自閉症スペクトラムの赤ちゃんは人からの刺激を好む傾向が弱いのでしょう。

やがて自閉症の赤ちゃんも共同注視は可能になります。しかし、それは同じ経験を共有するという三項関係の意味を欠いた上で行われるのです。そのため、自閉症の子どもは他者とイメージを共有することもまた、苦手となってしまいます。その結果として有名なのは、自閉症スペクトラムの子どもは、相手の言動の背後には心があると想定することが難しいという特徴があるということです。これは「サリーとアンの課題」と呼ばれる、以下の問題に正解できるかどうかで確かめられています。

・サリーとアンは2人で部屋の中で遊んでいます
・サリーは自分の人形をカゴの中に入れて部屋を出ました
・サリーがいない間に、アンはカゴの中の人形を自分の箱の中に隠しました
・部屋に戻ってきたサリーは、自分の人形がどこにあると思うでしょう?

この課題に正解するためには、自分以外の他者の視点に立つこと、そしてその他者にも心がありその中に信念があるということを理解している必要があります。正解は「カゴの中を探す」なのですが、自閉症スペクトラムの児童はこの問題に正解することが難しいということがわかっています。この課題に正解するために必要となる、自分と異なる他者にも心があると想定することを「心の理論」と呼びます。この「心の理論」の欠損が自閉症スペクトラムの社会性の問題の原因であるとされてきました。しかしこれは、愛着や三項関係の成立の難しさから社会性の発達が遅れ、その結果として他者とイメージを共有することが苦手であるために生じるものであると、今では考えられています。

自閉症スペクトラムの子どもとの関わり方

自閉症スペクトラムの赤ちゃんには人からの刺激を好む傾向が弱く、愛着や共同注視の成立が遅れ、他者とイメージを共有することの苦手さがあらわれます。その結果として、コミュニケーションや想像力の障害が生じてしまうと考えられます。それでは、これらのことを踏まえて、自閉症スペクトラムの子どもたちとどのように関わり合いを持てばいいのでしょうか。

すでにみてきたように、自閉症スペクトラムの赤ちゃんでは愛着と共同注視の成立の遅れがあり、その背景には人からの刺激を好む傾向の弱さがあります。重要になるのは、この傾向はまた「養育者の行動を引き出す力の弱さ」にも繋がるという点です。そのため、養育者はより積極的に子どもと関わっていく必要があると言えます。子どもの方から発するサインを、より養育者が敏感に受け取り、伝え返しを行っていくことで、その弱点をカバーしていくというイメージです。

確かに自閉症スペクトラムの子どもは人からの刺激を好む傾向が弱いですが、それでも環境と相互作用しながら、常に変化していきます。養育者の丁寧な観察と根気強い働きかけがあれば、子どもはその力を伸ばしていくことが期待できます。ですがこれは、一人の養育者で抱え込んで行うべき事柄ではありません。パートナーや家族の理解と協力が不可欠ですし、また発達の援助の専門家の助けを借りることが必要になっていきます。養育者もサポートをしっかり受けることが大切です。子どもの特徴を、ユニークなものとして受け入れることは時として困難な場合があります。だからこそ、その困難な作業を一緒に乗り越える支援者を見つけることが重要になると考えられます。

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